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札幌家庭裁判所 昭和56年(少)2041号 決定 1981年8月28日

少年 S・M(昭三七・一・二九生)

主文

この事件について審判を開始しない。

理由

一  本件事実

少年は、昭和五五年七月三日午後一一時ころ、普通乗用自動車を運転して国道××号線の片側二車線の中央線寄り車線を指定制限速度をこえる約一〇〇キロメートル毎時の速度で進行中、少年車を追い越そうとした少年の友人A運転の普通乗用自動車に衝突されたため対向車線上に押し出され、対向車線を進行中の車両と衝突し、対向車の同乗者を死亡させるなどした。

二  本件決定に至る経緯

当庁裁判官は昭和五五年一二月一五日本件事実を刑法二一一条に該当するとして札幌地方検察庁検察官に送致したところ、同庁検察官は同五六年六月二五日、<1>公訴を提起するに足りる犯罪の嫌疑がない、<2>但し、少年法三条一項三号の審判に付すべき事由がある、として少年法四二条但書により本件事実を再び当庁に送致した。

三  当裁判所の判断

(一)  業務上過失致死傷の成否

当裁判所も、札幌地方検察庁検察官の判断と同様に、少年車が他車の追突により対向車線に押し出されたものであり、約一〇〇キロメートル毎時の速度で進行していたことを考慮しても、少年に過失があつたとは認められないと思料する(なお、当裁判所は虞犯事件として再送致された場合においても、まず犯罪の成否について判断すべきであり、その成立が認められれば、犯罪事件として保護処分(但し、少年法二〇条による検察官送致はできない)に付することができるものと考える。)。

(二)  虞犯事由の有無

次に本件事実が少年法三条一項三号の虞犯事由に該当するか否かについて検討すると、本件法律記録及び当庁家庭裁判所調査官の調査結果によれば、(1)少年は、本件事故当時母と同居し、土木作業員として同一の勤務先に約二年間勤務し、(2)昭和五五年六月一一日普通免許の交付を受けたが、時折友人の車を借りて運転していたにすぎず、また暴走族に加入しておらず、(3)本件事故当日、中古で購入した普通乗用自動車の引渡を受け、自分の車で初めてドライブ中本件事故を惹起したものであり、(4)本件当時一緒に走行していた友人Aも、車に関心が強く無暴な運転をする面は窺われるものの、暴走族などに加入していなかつたものである。

以上の点からすると、本件事実から少年の無暴な運転態度を看取できるけれども、それだけでは虞犯事由に該当しないことは明らかなうえに、本件事実を中心とした少年の普段の行状を見ても虞犯事由を見出すことはできない。

(三)  したがつて、非行がないことになるから、本件事件について審判を開始しないこととし、少年法一九条一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 市川正巳)

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